デザインに納得感をもたせるために。Process:18

今回は服のデザインについてお話させてください。


もう遠い昔のことに感じられますが、今のファッションの転換期というのはやはりユニクロなどのファストファッションが現れた時だと思っています。


それまでは洋服に興味のない人にとって「清潔感のある普通の格好」をするためには思った以上にお金や時間のかかることでした。

「普通」を手に入れるために雑誌を隅々まで読み、高価な服を買い、流行が変わると今あるものを処分してまた新しく服を買う。


そういった「普通」をファストファッションによって驚くほど安い値段で買えるようになって、街を歩く人たちの服装は大きく変わりましたし、そこからファッションを好きになったという人もたくさんいると思います。


そして今はインターネットの発達や安価なツールやアプリの広がりもあって、グラフィックやプロダクトなど他の分野でも「普通なもの」は誰にでも作れる環境になりました。


それはすばらしいことだと思うのですが、ファストファッションの生み出した「普通」というのは「あらゆる人に向けられたもの」であるゆえに、「それでいい」以上の満足を得られないものだということです。

以前お客さんとファストファッションについて話をしていたとき、「誰にでも似合うものって、つまりは誰にも似合わないものですよね。」とおっしゃられていて、なぜ自分がファストファッションに心から惹かれなかったのかがすごく腑に落ちたことを覚えています。


そして、それに対してファストファッション以上の立ち位置を目指すブランドはそういった「普通なもの」と比べて「差別化するためのデザイン」や「新しいデザイン」をするために個性的なものが多くなったように感じています。


「これは既にあるからこうする」といった消極的なデザインやコレクションブランドの模倣のようなデザインが店頭にあふれかえるようになって、服が好きな自分たちだからこそ、そんないたちごっこのようなデザインに少し疲れてしまっていた。


そこで、そんな自分たちの始めるレーベルで、作る服のデザインはどうするのか?


もの作りに関わる立場の人間にとって、デザインをどうするかという問題にはいつも頭を悩ませていることです。

Itheを始める時に一番時間をかけて話し合ったのは「自分たちのデザインをどうやって納得感を持てるものにするか」というところ。


自分たちの服に、説明できないデザインをしたくない。もっと言えば、いわゆる「デザイナーの感性」によるデザインを極力排除したい。自分たちの価値観を表現できて、かつ納得できるような匿名性のあるデザインが理想でした。



多くの服を見てきて、考えれば考えるほど正直なところ「本質的なデザイン」というのはすでに出尽くしているものであると思わされます。

これから本当に新しいものというのはテクノロジーの進化か、人の生活様式が大きく変わる時にしかもう生まれることはないでしょう。


では、もし本当に本質的なデザインというものがすでに出尽くしているのなら、それらの中から自分たちで選んで、それをそのまま再現すればいいのではないか。

多くの服が作業着や軍服、制服として作られていた頃に生まれた、使い勝手だけが考えられたデザイン。誰がデザインしたものかもわからない、でも実際にはそれらを参考にして今も多くの服が生まれている。

それらのデザインが本質的なのかどうかは、歴史がすでに証明してくれているのです。


いわゆる「元ネタ」と呼ばれるもの、服が本来そうであった姿かたちを今存在する上質な素材で生まれ変わらせることがItheの目的であり、使命であると思っています。


本当のこと、本物のことを知りたいとずっと思っていました。

そして、自分なりの解釈で見つけたこと、たどり着いた場所を多くの人に知ってもらいたいと服を作り始めて、少しずつではあるけれど、Itheのことを知ってくださる人が増えてきたことを実感しています。


秋冬の展示会を5月の末に予定しているので、ぜひ、僕たちが考えてきたことを顔をあわせてお話させてください。


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